はじめに
ここ二年程で、早期アクセス(early access)のゲームに心躍らされたことは非常に稀かもしれない。以前執筆したULTRAKILLはともかくとして*1、それに匹敵するポテンシャルを持ちうるゲームを発見したため紹介をしていく。
尚、このゲームについては特に先行記事がないため、拾い漏れていた情報があればぜひコメントに記載してほしい。
1. Onirism
Onirism*2は、フランスの5人組チーム、Crimson Talesによって開発・早期アクセス中のゲームである; メンバーの内3人がアーティスト、残りの二人がコンポ―サー・プログラマーと非常にインディーらしい構成。前章で触れた通り、現在は早期アクセスタイトルとして以下のゲームモードを搭載している:
- アドベンチャー(シングルプレイヤー)
- 公開時点ではチャプター6の途中までプレイ可能。
- アーケード(シングル/マルチプレイヤー)
- PersecやRemote Play Togetherであればコントローラーでプレイ可能。
- Chasse/Hunt(シングル/マルチCo-op)
- 全5ウェーブ形式の時限式サバイバルモード。
- Contes/Tales(同上)
- 様々なシナリオに沿ってマップを探検するミニモード….とは名目上であり実質はCall of Dutyシリーズのゾンビモード。
- マルチプレイヤー(マルチPvP)
- ベースはQuake等のアリーナシューター。
- Chasse/Hunt(シングル/マルチCo-op)
- PersecやRemote Play Togetherであればコントローラーでプレイ可能。
(気軽に引用するのは気が引けるが)Wikipediaによると、本章題であるタイトルの”Onirism”とは、「東ヨーロッパの勃興に応じ1960年代に最盛期を迎えた、ルーマニア文学におけるシュルレアリスムの一派」*3と定義されている。その中心人物であるDumitru ȚepeneagがReview of Contemporary Fiction第28巻へ著したエッセイ”Onirism”*4によると、アバンギャルディズムの影響が大きく、Victor BraunerやGeo Bogzaといったルーマニアのシュルレアリスム・エロティシズム作家、更にはドイツのロマンティシズムにルーツが見られるとしている。技法として用いられていたのはオートマティズム(automatic writing)であり、意識がありつつも意図せず文章を書く(霊的に書かされる?)事を指す*5。更に、精神医学分野においては「完全な覚醒状態かつ幻視の症状を発している」精神状態を指す語として使用されている。上述した一派・もしくはオートマティズム時の精神状態からの引用とみられる。
長々と書いたが、概要としてまとめると、Onirismは”シュルレアリスム的・幻想的なルーマニア文学の一派と執筆時の精神状態を表す語”とすることができる。分かりやすく言ってしまえば白昼夢(daydreaming ≒ oneirism)の状態である。typoなのか意図的なのかは不明なものの、幻想的景観に通ずる意味合いを持っているのは確かなようだ。
2. ヴィジュアルデザイン
ようやくここでゲームに話を戻す。Onirismの数ある特徴の一つに、タイトルを具現化した幻想的なデザイン・アートスタイルがある。あくまで個人的主観に拠る所が大きい部分ではあるが、ここでは主人公のキャロルが入り込んだ世界、Creariaの環境を引き合いに出して説明する。
世界感の構築において、おもちゃや鉛筆・絵の具等の子供っぽさを意識した構築物・紫のスカイボックスからなる非現実的世界に対する現実寄りの一部キャラクター・環境テクスチャ等の対比が挙げられる。キャロルを取り巻くCreariaは、人形の村人たちやおもちゃの銃、方々に舞っている妖精や空飛ぶクラゲ等がいる不思議な空間となっている。
スカイボックスはの基本色は紫で、シングルプレイヤーの疑似的なタイムサイクルに影響を受ける。日出~日没の太陽周りは黄、月(夜)は青といった具合に色調が混ざり合い、上述の構築物との相乗効果により夢の世界にいるような世界観を演出している。
ただ非現実世界への一辺倒ではなく、ベタ塗りやセルシェーディングに頼らない岩や人工物*6といった環境のリアリスティックなテクスチャやライティング*7、プレイヤーを含めた一部キャラクターの等身などを通じ現実世界との繋がりを感じさせる部分がある。そのため、Creariaを完全に”夢の世界”として落とし込めない不自然さを醸し出している。
具体例は枚挙すれば暇がないが、この非現実-現実さの塩梅によって前章で述べた”Oniristic”な世界観を作り上げる事に成功している。ちなみに、アーケードモードの各マップではこの哲学を維持しつつも、独自の世界観を構築している。
3. シングルプレイヤー: あらすじ
ここでは、目玉であるシングルプレイヤーのストーリーについて述べる。
そもそも、キャロルがCreariaに迷い込んだ理由は何故だろうか。如何にして傘やNerf、水鉄砲を握り締め大冒険を繰り広げることになってしまったのだろうか。
”寝ている間に謎の人物がウサギのぬいぐるみを搔っ攫ったため取り戻すべく暗黒のポータルに突入したから*8"
プレイヤーに与えられる前情報はこれだけである。この人物がどのような目的で人形を奪っていったのか、そして物語の終着点とは… それが明かされるのは今後の話になる。
4. ゲームプレイ
記事内で数回ほど物騒な名前が出てきているが、この章ではそれらを回収する*9。
公式ストアページでは、アクション/アドベンチャーとジャンル付けをしている。が、これは氷山の一角に過ぎない説明と言えるだろう。というのも、ゲームが進行するにつれ、銃を多用するシーンが増えてくるためである。つまりTPSの要素が出てくるのである。同頁ではパワーアップをメトロイドヴァニア風に取得できると記載しているのも興味深い。
ただアクションとは些か大雑把な体系区分のため、以下にWASD以外のムーブセットを3DプラットフォーマーとTPS要素に2分し記載する:
- 3Dプラットフォーマー
- TPS
(❁はスタミナを消費し、☾については専用の消費ステータス”Imagination”を使用する。)
上記の通り、ムーブセットのみでもTPS要素をかなり含んでいることが分かる。そのため、TPS部分について少し掘り下げていく。
ゲームでは4種類の弾薬を使用し、それぞれ独自のスロット数・カウントを持つ。種類は以下の通りになる:
- Foam: 発泡スチロール
- Soap Water: 石鹸水
- Battery: バッテリー
- Fireworks: 花火
- アイコンはロケット花火。
- 実在・おもちゃベースと多様なモデル。
- 効果も様々だが着弾時に爆発するものが多い。
- 主な”おもちゃ”: 火炎放射器、M202的ロケットランチャー*24、グレネードランチャー*25、Nerf Bow的火薬付き弓矢等
これらの他にデフォルトでヘアドライヤーなハンドガン*26を使用でき、公開時点で必須・任意のアップグレードを一つずつ入手できる。Talesモードでは、各テーマに合った弾薬無限のピストル等がデフォルトで装備される*27。
上記の銃器とは別に、上述したImaginationを使いグレネード等のツールを使用することができる。こちらは共通のステータスを消費するが、各ツールによって消費量が異なる。以下がその一例である:
- 香水(火炎瓶): 可愛い見た目とは裏腹に凶悪な効果。投擲して着地点に火の海を生み出す。
- ハートのペンダント: HPを10回復する。
- ピコピコHache*28: 60ダメージの戦斧を投擲する。当たるとピコピコ音がする*29。
- Seven: オリジナルのウサ耳付きロボット。前方へ突進し射撃援護を行う*30。
- ダイナマイト: おもちゃであろうとすらしていない。空中で撃って爆発させられるが、このツールのみ5秒以上手に持っていると丸焦げになって死ぬ((他の爆発物は全て手元で爆発させても無傷))。
また、一時的に能力強化を行える消費アイテムのエリクサーも存在している。ツールと同じスロットを使用する。Ragg'sか道中の販売機により購入可能。種類により自動体力回復や攻撃/防御UPを数分の間行ってくれるため、ボス戦前に装備しておくといいかもしれない。
これらを駆使して、キャロルは愛するウサギのぬいぐるみ、BunBun*31を取り戻す大冒険に足を踏み入れることとなる。
ただ武力行使だけが冒険ではなく、プラットフォーマーのセグメントも数多く用意されている。目的地にたどり着くまでの道程は文字通り平坦ではなく、一山乗り越え足場を乗り越え己の限界をも乗り越える必要がある。更に方々に配置されているテレポーターからは、プラットフォーミング中心のボーナスステージ*32に入ることができる。そこではリワードとしてDreamstoneなるアイテム*33を取得できるが、かなりの難関であるため心しておく必要がある。
ユーザビリティはそれなりに充実しており、特に非エイム時のカメラ距離をAlt+マウスホイール上下で即座に変更できる機能が白眉である。ただしマウス3等のボタンにキーを割り当てることができない等、荒削りな部分は多少あることを念頭に置いた方がいいだろう。
俯瞰すると、OnirismのゲームシステムそのものはTPSに重心を置いたプラットフォーマーということになる。だがそれだけでは終わらず、ゲームプレイに花を添える魅力がさらに存在する。
5. サウンド関連
サウンドトラック
本ゲームのサウンドトラックはCrimson TalesのCharles Philyによって製作されており、唯一のコンポ―サーのため完全に彼の独壇場となっている。現在プレイ可能な分だけでも多様な環境を見せてくれているゲームだが、サウンド面でも負けじとバラエティ豊かに仕上げてきてくれている; 4/4のユーロディスコ・ハウス系統のエレクトロニックをベースとすることも多いが、アリーナファイトではMick Gordon/Doomエスクなヘヴィメタルにポップチューンを加えたユニークなサウンド、カットシーン中のオーケストラ等使えるネタは非常に多い。
開発途中ということもあってか、公式でのサウンドトラックは執筆時点でリリースを確認できていない。しかし、ゲームファイルを抜いた有志がプレイリストをYoutubeにアップロードしている。今後も広がるCreriaの世界を彩るサウンドトラックは一聴の価値あり。
www.youtube.com ここは完全に余談であるが、彼のスタイルはどこかPascal Michael Stiefel*34を想起させられた; 両者ともジャンルを超えた作曲をする他、糸田屯が評する所の”引き出しの多さと非凡なアレンジセンス*35”を兼ね備えている等何かと共通点が多い。後者がオーケストラアレンジをホームグラウンドとしているのに対して*36、前者は先述の通りダンス系を多く手掛けているのも興味深い*37。
声の演技
Onirismは何と仏語・英語でのフルボイスを実装も予定している。現状の英語音声はプレースホルダであるのに対し、仏語版はMaxime HoareauとVictor NiverdからなるRe: Take*38というDubグループによる監修で順次実装されるとのこと。普段は声優を呼んでアニメのパロディ動画を作っているが、直近ではMiHoYo公認で原神の仏語デモリールを作る*39などかなりのやり手の様である。
そんな仏語音声であるが、Anna Lauzeray Gishi*40が主役のキャロルを演じる。彼女のデモリール*41では過去の出演作を聴くことができるため、英語吹替とは一味違う雰囲気を味わっては如何だろうか。
現在はコロナの影響下で収録がスローダウンしている*42ため、実装はだいぶ先になると思われるが期待したい。
おわりに~an action/adventure game inspired by classic games~*43
末筆ながら、実際にプレイをする中で発見して欲しいためあえて章を組まなかった部分について簡潔ながら述べる。
3章で触れたあらすじでピンときた*44方がいるかもしれないが、章題の通りOnirismは古今東西の名作ゲームにインスパイアされている。各所に散りばめられたオマージュは本記事の注釈以外にも数多あり、それらを見つけながらプレイするのも一興である。
また、早期アクセスタイトルでありながら、シングルプレイヤー単独でも数十時間相当になるコンテンツ量も忘れてはならない。現在実装されている分のみでもそうだが、いつしかリリースされるであろう完全版は、数多くのコンテンツ量と相まって”Onirism”とは何たるかを教えてくれるに違いないだろう。公式TwitterやDiscordサーバーにて定期的に情報発信やフィードバックを行っているため、こちらも合わせて確認してほしい。
OnirismはSteamにて早期アクセス版が公開/鋭意開発中。
*1:SteamDBによる好評-不評比のパーセンテージ集計で全ゲーム中10位と超人気。; https://steamdb.info/stats/gameratings/
*2:Onirismthegame.com
*3:https://en.wikipedia.org/wiki/Onirism
*4:
*5:個人的にはペンテコステ派に当てつけられている異言を想起したが…
*6:あんな平和な世界に何故存在しているかはストーリーへ根幹的に係わるため詳細は省く。
*7:最もこれはエンジンの功績である部分も大きい。Unity製。
*8:
*10:二段ジャンプへのアップグレード有
*11:こちらも必須のアップグレード有、スタミナ消費技
*12:サンシャインのアレと言えば分かりやすいか
*13:インジケーター表示時にスライディングで発動、回避アニメーションを待つことなく即時で行うことも可能
*14:しゃがみ時orドルフィンダイブ時にエイムで発動する
*15:匍匐時に横移動で発動
*16:スライディング時は無敵、Gearsシリーズのサイドロールに近い
*19:再びゴールデンアイ007ネタ
*20:やや分かりづらいスプラトゥーンネタ...と思いきや、イカ2より先にゲームに入っていたらしい
*22:Doomのプラズマライフルより、排熱アニメーションまである
*26:性能はDoom (2016)に近い、チャージショットや時間回復のエネルギー等
*27:Summer Slime Blastシリーズは水鉄砲、Fallen PeaksはM1911、Middle School of the DeadはGlock 19等 やけに実銃ベースが多い
*28:Hache(仏) = 斧(日)、形容詞では Hache = みじん切り となるため更におぞましく キャロルらしいが
*29:ハンマーよりはサンダルやぬいぐるみの音に近い
*30:ボイスから何からスタンドである
*31:これがないと寝れないらしい
*32:これまたサンシャインのアレ
*33:実装予定の近接武器アップグレードに使用できるようになるとのこと
*34:A Hat in Time, Circuit Superstars等
*35:
*36:A Hat in Timeの他、Youtubeチャンネルではアレンジを”Epic Remix”としてシリーズ化している
*37:あくまで比較した場合である。このプロジェクト以外のディスコグラフィが全く確認できないため邪推であるのは承知願いたい
*38:
*39:
*40:
*41:
*42:曰くスタジオへは同時に3人までしか入れないらしいとか
*44: (Ultimate)Doomのストーリーが元ネタか Ultimate Doomで実装されたEP4はDoomguyが飼っていたペットのウサギ、Daisyに対する復讐という側面がある