Joji(本名George "Kusunoki" Miller: 1992~)とは、NYで活動中の日本人シンガーソングライター・プロデューサーである。代表作: BALLADS 1, In Tongues
と書けばいかにも音楽一筋で成功したアーティストであるように見えるが、彼が世界から注目を浴びるようになったのはむしろ音楽でなかった。この記事ではそんな彼の少年時代の一片から、Youtuberとしての盛衰と、本当の自分を追っている現在について、Franku時代からのオタクとして何かを書いてみるつもりである。
少年時代―DizastamusicとFilthy Frank―
JojiがFilthy FrankやPink Guyの名前の元に活動していた、コメディー系*1の元Youtuberであったことは様々なメディアやニュース等で既知の事実となっている。だが本当の原点は音楽であった。
少年時代、彼は神戸市東灘区のカナディアンアカデミー*2に通っていた彼は友人たちと暇つぶしに当時流行していたヒップホップをサンプリングしたり、音楽を作ったりしていた。*3そんな彼がYoutubeにDizastamusicとして動画をアップロードし始めたのも、本来は彼の音楽をプロモートする目的であった。だが彼の目的とは裏腹に、Filthy Shitから誕生したFilthy Frankが思わぬ(今どきの言葉では)バイラルを起こし、今後の彼のYoutuberとしての芸風を確立*4させていくこととなる。
Youtuber時代の全盛期と影―Pink Guyの成功、Jojivlogsのbacklash*5と削除―
Filthy Shitから思わぬ人気を得たJojiはそれ以降、人気を保持するためにFilthy Frankとしての動画を続けいく以外の選択肢を持てなかった。そんな彼が新たなペルソナを確立する。その名前はPink Guyである*6。既に"Youtuber超黎明期"とでもいえるような、私たちからは少し前と言える時代で大きな人気を得ていた彼が圧倒的な人気を誇るようになった一つの要因とも考えられる。その最大の功績ともいえるのがDO THE HARLEM SHAKEである。この現象*7についてはその他の記事にお願いするとして、つまりインターネットのイコンとも言える人気を誇るようになった彼であった。そして、彼は舞台をTVFilthyFrankへと移してゆく*8。
しかし、そんな彼もGeorgeないしJojiとしての自分を表現したかったのか、Jojivlogsを開設した。Dizastamusic時代も"FILTHY FRANK EXPOSES HIMSELF???"で同様の動画をアップロードしたことがあるが、どちらも"熱狂的なファン"により削除に追い込まれた*9とされている。私生活の面では、19の時にNYへ移り、そこを拠点として活動するようになる。
2つのアルバム―JojiとPink Guy―
Jojiとしての源流―Chloe Burbank Volume 1―
Youtuberとしての活動とは別に、本来の自分の追求として行ったサイドプロジェクト*10として、アルバム"Chloe Burbank Volume 1"とその他のシングル群である。Chloe-は2014年から15年にかけ、彼が友人と進めていたプロジェクトであり、2016年に"Thom"と"You Suck Charile"がSoundcloudに"リーク"*11される形でリリースされた。この2曲はチルウェーブ・チルラップやLo-fi Hiphopの流れを汲んだ曲と定義できる。また、この頃から彼の音楽スタイルから確立されていったと確信できるような曲である。しかし、諸般の事情により現在はお蔵入りとなっている。
音楽界を震撼させたコメディラップ―Pink Season―
彼はChloe-から1年後の1月に、コメディラップアルバムであるPink Seasonをリリースした。先行シングルともいえる"STFU"を16年9月に公開していたが、満を持してリリースされたアルバムは"コメディ"として高い評価を得て、ビルボード200のピーク70位を獲得した。メインストリームの面で言えば、The Tonight Show with Jimmy Fallonで紹介*12されたことや、収録曲の"セックス大好き"が日本でバイラルを起こした事からもその影響を窺い知ることができる。また、コメディ要素だけでなく"WE FALL AGAIN"*13のようにJojiの片鱗を示すトラックも収録されている。
Jojiとしての発露―In Tonguesと引退、88rising―
2017年に入り、彼はHot Onesにて存在をほのめかしていたEPのシングルである"Will He"を10月17日に公開した。そしてそのEPである"In Tongues"が2017年11月3日にリリースされた。全体の曲調としてはそれまでのJojiの曲たちとは違いややダークになり、トリップホップの要素が追加されたところや、エモーショナルな歌詞を含んだ歌唱が追加されているところが以前と比べて大きな変化となっている。
その裏でJoji自身は、以前から感じてていたYoutube活動の達成感の無さや、ユーモアを行うのに単純に疲れた、といった理由により次第に酒に飲まれるようになり、精神状態が不安定になるなどの健康に支障をきたすようになっていった。そして同年12月29日に引退の公式声明をtwitter上にて発表した*14。この移行の背後には88risingの協力があった。88risingについては他の記事が詳しいと思われるのでここでは触れないが、彼は88risingの元で活動するようにしたことにより、"本当に自分がやりたいことをできるようになった"とも語っている。また、CEOであるショーン・ミヤシロは"これは、彼が自分の本当にやりたいことを理解した結果であって、僕らは彼の信念に沿って、その成長を手助けしたにすぎない。"と語っている。
余談になるが、JojiはPink Guyの音楽をOdd Future*15にアセンブルしようとしていた時期があったらしい。これが実現できていたらそれはそれで面白かったかもしれない。
Jojiの進化と現在―BALLADS 1とプラチナディスク―
2018年9月12日に"SLOW DANCING IN THE DARK"をアルバムの存在とともにリリースした。この曲は大ヒットとなり、Jojiという存在を文字通り全世界に示したシングルとなった。その後も"YEAH RIGHT"、"CAN'T GET OVER YOU"、"TEST DRIVE"とシングルをリリースしてゆき、満を持して"BALLADS 1"が同年10月26日にリリースされた。その際、ビルボード200では3位ピークを叩き出し、なんとUSトップヒップホップ/R&Bアルバムでは初週首位*16という功績を残すなど、Joji自身がメインストリームに認められた瞬間でもあった。
今年に入り、6月14日には新曲"Sanctuary"をリリースし、そして2019年7月9日にSLOW DANCING IN THE DARKがプラチナディスクを獲得した。これからの成長にも目が離せない。
まとめ・後記
音楽を主軸にしようとしたYoutubeチャンネルで、ひょんなことからそれから大きく遠ざかった"大きな"彼のペルソナたちと完全に決別した。*17。それを踏まえて音楽制作を行っているJojiには感服すると同時に、彼の音楽スタイルも鱗片ではあるが理解できたような気がした。
また最後になるが、この記事において彼の苦悩を美談化する意図はないことをここで言っておく*18。なぜならJojiは一貫してJojiその人であり、様々な運が絡みあったがために他のペルソナによる不安を抱えざるを得なかった*19からである、と今は考えるようになっている*20。
P.S.
ゲスの極み乙の川谷絵音さん、何回かこれを読んで理解してくださいお願いします
『“海外っぽい” ただコピーしてるだけ』
— FiaRivo[OtO Hz] - HIPHOP&洋楽&EDM - (@fiarivo) August 10, 2019
『“無知は罪” 皆知らないから成り立つ』 pic.twitter.com/Z1wV1PLqSR
*1:非常にブラックユーモアの溢れたタイプである。そして一般人も巻き込むような感じのもある。そのことについては後述
*2:いわゆるインターナショナルスクールである
*3:このことはJoji自身のインタビューや彼を題材にした動画などが詳しい
*4:同じくFranku以前のコメディ作品シリーズとしてTEMPURA BOYZがあるが、こちらはシュールで(言い方を変えれば)素朴であった
*5:直訳は"跳ね返り"だがこの場合は単純に"反発"や"裏切り"といった意味になる
*6:I HATE VALENTINES DAYが初出であるが、原動画は削除済みである。リンクは再掲を使用
*7:ただし楽曲の制作者であるBaauer自身は、"Harlem Shakeのアーティスト"として扱われるのを嫌っていたそうだ。確かに、他にも佳作揃いである彼の曲が正当に評価されない辺りこの感情も当たり前である。また、joji自身はHot Onesにてバイラルや大衆についてやや否定的なコメントをしている
*8:主に著作権による垢BANを危惧していたため。逆に現在の基準であればFrankuや今のJoji自身も存在しなかったともいえる。そのくらい昔はやや寛容であった
*9:つまりはFrankuやPink Guyの、=Joji自身としてのJojiを認めていなかったファン。そんなわけでこれら2つともアーカイブないしファンの再投稿とした
*10:正直今になって思えばメインプロジェクトと定義するべきであるが、あまりにも彼のペルソナの人気が大きすぎたため、便宜上こう記した
*12:様々な司会者(当時・現在はリンクの通りJimmy Fallon)により約60年間放送されている人気TVシリーズ
*13:このトラックはPinkOmegaという別チャンネルで先行的にアップロードされていた
*15:鬼才・Tyler the Creator率いるヒップホップグループ
*16:どのくらいすごいかと言えばアジア系出身で初めてである、とでも言えばいいのだろうか
*17:彼の場合はJojiとペルソナたちのコンテンツは別である、ときっぱり分け切った。もちろんその裏には先述の通り88risingやショーンの支援もある
*18:James Blakeによる主張を参考されたし
*19:言い方を変えればFrankuやPink Guyとして続けないといけなかった
*20:ただし、"ATTENTION"や"Bitter Fuck"の歌詞では自身の過去にまつわると解釈できる歌詞が存在するため、一概に否定しきれないのも個人感情としては存在している